No.173

個人が雑誌を発行している現代(美術手帖宛)

text : mama(美学者母)
2016年11月27日(日曜日
)執筆

 

以前のニュースですが、
目に留まったので。

2015年に、
美術手帖を出版している、
美術出版社が、
民事再生で実質倒産し、
CCCがスポンサーになったニュース。

昨今あらゆる出版社が倒産しているわけですが、
この根底には何があるのでしょうか。
特に僕はアート関係の人間なので、
美術手帖をベースに論考していきます。

まず美術手帖の出版部数は60000部、
美術出版社の売上が12億円との事です。
まぁ12億円の売上がどの程度かというと、
大阪で言うと、
東大阪の小さな町工場でも、
それ位の売上はあるでしょう。

端的に、
収益を効率良く上げる企業としての価値、
それはほぼ無いと考える事ができます。

ではメディアとしての価値、
美術というニッチな業界ですので、
情報を集約し、編集し、発信する。
ここに美術手帖や美術出版社の、
「価値」があるのだと思います。
すなわち媒介する媒体としての価値です。

しかし、
IT革命以後のメディア環境の変貌で、
この媒体としての価値もほぼ無くなりました。
現代では昔でいう媒介する媒体を、
個人が担ってきています。
それはSNSなどの普及により、
個人から発せられる情報が、
大多数の人間に直接届ける事ができる、
そんな時代になったからです。

その様な中心的な役割を担う人間を、
インフルエンサーと呼んでいますが、
この個人が媒介する巨大なメディアは、
数万人から数十万人、
時には数百万人へ情報を届けます。

先ほど美術手帖の出版部数を60000部と紹介しましたが、
数字をみればわかる通り、
わざわざ美術手帖なんてメディアが必要無いのです。
ここから企業的価値もメディア的価値も無い事が、
一目瞭然です。
では美術手帖や美術出版社が唯一価値があるとしたら、
それは「権威」というものです。
これは悪しき風習の残りカスのようなものですが、
美術手帖や美術出版社というのは、
もう社会的価値の無い、
残りカスの様な存在なのです。

日本の美術業界全体がそうですが 、
最終的に権威というものにすがるしかありません。
具体的に、
美術手帖にピックアッップされたい人間が、
おそらく美術手帖の一番の読者層なのですね。

古い日本の画壇などでも、
権威者に認められるために、
その権威者なり、
師事している権威者の作品を購入するのです。

「権威」とは盲目的な信仰であり。
新興宗教と同じで、
その資本の流れは、
信徒がお布施するお金で、
その教団は成立しています。

美術手帖という雑誌が成立している構造は、
美術手帖へ掲載されたい、
またピックアップされたい人たち、
それが主な購読者であり、
閉じた系でお金が回っているに過ぎません。

もうこの辺でお気づきだと思いますが、
美術手帖、美術出版社の役目は終わったのです。

そして私の様な、
無名のアーティストが、
数千人、数万人へ向けて、
この様に、
自分の表現ができている。

その現実を理解してください。

もっとラディカルに申しますと。
現代は私の様な個人が、
昔でいう雑誌を発行している。

という事なのです。

「美学者母手帖」
発行部数10000部
美術作品、美術批評、あらゆる言説

 

 

美学者母